Claudeを開発するAnthropic(アンソロピック)の上場について、2026年10月21日時点で会社が発表しているのは「6月1日に米国の証券取引委員会(SEC)へ上場申請書類(S-1)の下書きを秘密裏に提出した」ことだけです。上場日・調達額・評価額はすべて報道で、それも「事情に詳しい関係者によると」という形のものです。
報道をまとめると次のとおりです。
日本の証券会社が個人向けに申込を受け付けるかどうかは、10月21日時点でどこからも発表がありません。先例になるのは6月のスペースXで、このときは楽天証券・SBI証券・みずほ証券が日本の個人向けに抽選を行いました(くわしくは下で説明します)。
アンソロピックは2021年にサンフランシスコで設立されたAI企業で、AIモデル「Claude(クロード)」の開発と、企業・個人向けの提供を事業にしています。2026年5月28日に650億ドルの資金調達(シリーズH)を発表し、このときの企業価値(ポストマネー評価額)は9,650億ドルでした。6月1日には、SECへS-1の下書きを秘密裏に提出したと自社で発表しています。公開版のS-1は、10月中旬の時点でSECのデータベース(EDGAR)に出ていません。
ロイターが入手したS-1の下書きによる業績は次のとおりです(いずれも報道ベース)。
売上の伸びは極端に速く、同時に損失と投資の額も桁違いです。日本のIPOの物差しでは測れない規模です。2025年の国内IPOでいちばん大きかったJX金属(2025年3月上場)の吸収金額は4,386億円、公開価格ベースの時価総額は7,613億円でした。報道どおりなら、アンソロピックは調達額でその30倍以上、評価額で300〜400倍になります。
史上最大のIPOは、2026年6月12日にナスダックへ上場したスペースX(ティッカー: SPCX)です。公開価格135ドルで555,555,555株を売り出し、調達額は750億ドル(オーバーアロットメントを含めると860億ドル)、公開価格ベースの評価額は1.77兆ドルでした。上場初日の終値は161ドルで、公開価格を19%上回りました。
アンソロピックの報道されている調達額(最大1,000億ドル)と評価額(1.5〜2兆ドル)は、どちらもこれを上回ります。実現すれば、史上最大のIPOを半年で塗り替えることになります。ただし、ここまでの数字はすべて「報道」で、公開版のS-1と仮条件にあたる価格レンジが出るまでは確定しません。この規模の上場は、市場環境や規制で予定が動くことがふつうにあります。
疑う理由は十分にあります。
つまり「11月は可能だが、12月以降にずれても不思議はない」というのが、公開情報から言える正直なところです。延期そのものは会社の価値を下げるものではなく、この規模の上場では珍しくありません。日本の個人にとって大事なのは「いつ」より「申し込めるのか」なので、次の節に進みます。
ふだん、米国のIPOは日本の個人投資家には縁がありません。株は米国の主幹事が機関投資家と米国の個人に配分し、日本から買える最初の機会は、上場後に米国株として市場で買うときです。日本のIPOのようにブックビルディングに参加して抽選で公開価格で買う、という形は基本的にありませんでした。
スペースXはこの前提を変えました。 2026年5月27日、楽天証券とSBI証券が「スペースXの株を日本の個人向けに公開価格で販売する(抽選)」と発表し、引受団に米国法人が入っていたみずほ証券も申込を受け付けました。楽天証券の条件は次のとおりでした。
つまり、日本のIPOとほぼ同じ感覚で「申し込んで、当たれば公開価格で買う」ができたわけです。公開価格135ドルの株が初日に161ドルになったので、当選して初日に売っていれば1株あたり26ドル(約19%)の値上がりでした。
アンソロピックが同じ形になるかは、まだ分かりません。 日本で抽選を行うには、米国の主幹事が日本の証券会社に株を配分し、その証券会社が日本で販売の届出をする必要があります。スペースXのときも、発表は上場の約2週間前でした。アンソロピックの主幹事候補はスペースXと重なっている(ゴールドマン・モルガン・スタンレー・JPモルガン)ので同じ経路はありえますが、各証券会社のIPOページにアンソロピックが載るまでは「申し込めない前提」で考えてください。
日本のIPOに慣れている人ほど、米国のIPOで戸惑う点がいくつかあります。スペースXの例で確認できたものを挙げます。
税金は、米国株でも日本の証券会社で売買すれば日本の税制(利益に20.315%、NISA口座なら非課税)です。米国での配当課税は別にありますが、配当の予定が報じられていない以上、当面は関係ありません。
S-1の下書きをもとにしたロイターの報道から、投資家が何を見ているかを整理します。
伸びている部分。 売上は2025年の年間46億ドルから、2026年は四半期で116億ドル(4〜6月)、168億ドル(7〜9月)と、1年で桁が変わる伸びです。会社向けのAIの利用料が中心で、ブルームバーグは9月時点の年換算売上を650億ドルと報じています。
投資家が気にしている部分。 第一に費用の大きさです。2026年上半期だけで計算資源とインフラに約90億ドルを使い(前年同期は23億ドル)、今後10年で少なくとも5,180億ドルの購入を約束しています。売上がこの約束に見合うペースで伸び続けるかが、評価額の議論の中心です。第二に純損失の見え方です。上半期の純損失807億ドルのうち720億ドルは、転換社債の価値が上がったことによる会計上の費用で現金は出ていませんが、見出しの数字としては目立ちます。第三に外部要因で、2026年6月に米商務省が最上位モデルに一時的な輸出規制をかけて成長が鈍った時期があったこと、米国防総省との訴訟が続いていることが報じられています。
これらは「上場できるか」より「いくらで上場するか」に効く材料です。評価額が2兆ドルなら、年換算売上650億ドルの約30倍にあたります。
いつ買えますか。 上場日が決まり、日本の証券会社が取扱いを発表した場合は申込期間中に、発表がない場合は上場日の日本時間の夜から米国株として買えます。上場日はまだ決まっていません(2026年10月21日時点)。
円で買えますか。 スペースXの例では、楽天証券は円決済、SBI証券はドル決済(外国株口座が必要)でした。アンソロピックの条件は各社の発表待ちです。
NISAで買えますか。 スペースXは楽天証券・SBI証券ともNISAの成長投資枠で買えました。年間240万円の枠の範囲内で、枠が最低申込額に足りないと抽選の対象外になる点はスペースXと同じ扱いになる可能性があります。
何株から申し込めますか。 米国株は1株単位です。スペースXは1株から申し込めました。
当たりやすいですか。 分かりません。スペースXの日本での当選率は証券会社が公表していません。配分は機関投資家70%・個人30%で、日本の個人に回る分はさらに一部です。
上場後すぐ売るべきですか。 当サイトは日本のIPOについて「初値で売るのが基本」と説明していますが、米国の大型IPOに同じ経験則が当てはまるかは分かりません。スペースXは初日終値が公開価格を19%上回りましたが、1件の例です。
配当はありますか。 配当の予定は報じられていません。急成長中の企業への投資であり、配当を目的に買う銘柄ではありません。
見るべきものは3つです。(1)SECのEDGARに公開版のS-1が出ること(株数と価格レンジが決まります)、(2)楽天証券・SBI証券・みずほ証券のIPOページにアンソロピックが載ること、(3)価格決定日です。申し込みたい場合、米国株口座とNISA口座の開設には数日かかるので、発表を待たずに作っておくと間に合います。
当サイトは日本のIPOを対象にしており、米国株の初値予想は行いません。この記事の数字は2026年10月21日時点の公開情報(報道と会社発表)で、評価額や時期は確定したものではなく、この規模の上場は延期もありえます。日本の証券会社が取扱いを発表したら、この記事を更新します。
IPOの申込を始めよう
いま申込受付中・上場予定のIPOを一覧でチェックできます。